こんにちは。
ごりぱちです。
人工知能や機械学習といったワードが世間で飛び交い、「仕事が奪われるかもしれない!」「いや、人間は仕事から解放されるんだ!」と、様々な意見が飛び交っていますね。
僕自身も、「一体どうなるんだろう?」と思っていたのですが、とある職人の方のお話を聞き、「僕らは仕事ではなく、やりがいを失うんじゃないんだろうか?」という考えを持つようになりました。
人工知能が与えるインパクトと比べられるか分かりませんが、人類の大飛躍の一つに、イギリスで起きた産業革命があります。
蒸気機関などの開発により、当時も人たちも「これで人間は仕事をしなくてよくなる!」と、今の人工知能と同じような反応をしたと言われています。
なので、産業革命で起きたことと、人工知能によって起きることは、少し似ているんじゃないかと思います。
これは、僕がとある味噌工場で、味噌の製造工程を学んでいる時に出会った味噌職人さんのストーリーです。
彼の話から、「技術の進展は、便利さと同時に、仕事のやりがいを奪う」という話も、案外間違いじゃないと思うかもしれません。
機械に強い味噌職人と、昔ながらの味噌職人
社会人2年目の夏、味噌工場で味噌の製造工程を学ぶため、とある味噌工場に2週間泊り込むことになりました。
その味噌会社は、江戸時代から続く、とても由緒正しい会社です。
僕はそこで、2人の先輩の元で、味噌作りを学ぶことになりました
1人はAさん。理系の国立を卒業し、研究開発部の部長をしており、商品作りのエース。年齢は40歳くらい。
もう1人はBさん。高校卒業後、味噌作りの職人として40年勤め上げている味噌作りのプロです。(今回の話の主人公)
最初の1週間、僕はほとんどAさんの元で色々学んでいました。
現代の味噌作りは、製品の品質を保ち、かつ効率よく、コストを抑えるため、大規模な工場で生産されています。
Aさんは、その工場=機械を扱うのがとても上手かったので、研究開発部の部長を任されていたのでした。
僕は、Aさんから、機械の使い方や、どんな状態の原料を機械に入れるのかを教えてもらいました。
その間、Bさんは他の機械の整備をしていたので、ほとんど話す機会がなかったです。
僕「Bさんはなんでずっと機械をいじってるんですか?」
Aさん「彼は高卒で、機械とかに疎いから、色々学んでもらってるんだ。」
僕は、Bさんに対して「アシスタントみたいなものか。」と勝手に思ってしまっていました。
この時は、Bさんの技術や思いについて、僕はアホみたいに何にも知りませんでした。
やりがいを奪われた味噌職人
そんなこんなで、Aさんに機械のことを教えてもらって、早10日が経過していました。
しかし、Aさんに急に出張が入り、僕はBさんと機械のメンテナンスをすることに。
機械のメンテナンスとは、味噌の材料である、米や麹などを混ぜる機械に生じた詰まりを取り除く仕事です。
その作業は、朝の9時から夕方の3時まで行われ、昼ごはんを食べる間もなく続きました。
作業終了後、僕はBさんと2人っきりでランチを食べることに。
今まで全然話したこともないので、気まづく無言でいると、Bさんが急にこんなことを言ってきました。
Bさん「味噌作り、面白いか?」
僕は、正直な思いを伝えました。
僕「初めは面白かったです。いろんな種類の機械を見れたので。でも、正直いうと、すでに飽きてしまいました。機械に突っ込む原料をきちんと保存して、機械を正しく動かし、その機械をメンテナンスするだけ。」
そこまで言うと、Bさんが顔を真っ赤にして震えていました。。
僕は、「しまった!!!!」と思い、謝ろうとすると、Bさんはこんなことを言ってきた。
Bさん「そうだとも!なんて退屈な仕事なんだ!味噌作りは、毎日葛藤しつつ、自分の技術を出し切り、もっといいものを作ろうと切磋琢磨する、本当に面白い仕事なんだ!
でも今はなんだ!ただの機械いじりじゃないか!こんな味噌作り、誰が楽しいんだ!」
僕はびっくりしました。
普段無口なBさんが、こんなに情熱を持って話すとは思わなかったから。
僕「Bさんって、高卒から入ったんですよね?当時はどんな感じだったんですか?」
Bさん「当時の味噌は、全て樽で作られていた。その樽の材料も、最高の木材を使っていたし、先祖代々、江戸時代からの味噌職人がたくさんいた。味噌の品質は日本一だったよ。俺も、その先輩たちに鍛えられて、味噌作りは天職だったんだ。俺は、その味噌作りのトップをしていたんだよ。」
僕「え、そうなんですか!?すごいじゃないですか?でも、なんで今は機械のメンテナンスを?なんで味噌作りを仕切らないんですか?」
Bさん「10年前かな。当時の社長がこう言い放ったんだ。
“競争が激しい昨今では、コストを極力減らさないといけない。そこで、我が社は全面機械化を導入することにした。なので、不要となる味噌職人たちを解雇せざるおえなくなった。申し訳ない。”
ってね。そこで、俺らはいきなりクビになったんだ。ただ、俺の場合は、味噌作りのトップだったから、”味噌製造の機械化の原料管理などを頼む”ってなって、残ることになった。
でも、俺は機械に疎いし、よく分からない。そこに、大卒のやつらが入ってきて、一気に味噌作りの仕事をかっさらっていった。どんな味噌が美味いかは、どうやって美味く作れるかは俺が一番知っているが、機械が扱えないからその知識や経験は完全に用無しになったんだ。
俺は天職を奪われて、やりがいもなくなってしまった。」
彼は、機械化によって、天職だと思って必死に働いていた味噌職人という仕事、いや、やりがいを奪われてしまったのだ。
会社が必要としたのは、伝統的な味噌を作る職人ではなく、機械の扱いに長け、統一感のある商品を作れる大卒だったのです。
彼は、機械化によって、徐々に工場内での立場、居場所を無くしていき、今は黙々と機械のメンテナンスをする仕事しかなくなったそうだ。
一通り話すと、Bさんは涙ぐみながらこう言った。
Bさん「機械化が悪いとは言わない。時代の流れだ。それもわかってる。
だけど、俺は悔しい。機械に負けたと思うと、悔しいんだ。あんな半端な商品を出したくないんだ。
俺の周りの職人だって同じさ。機械化によって、俺はやりがいを失ったんだ。仕事はあるさ。仕事は別に生まれるものだ。
でも、俺の人生のやりがいは、そう簡単に生まれるものじゃない。俺のやりがいは、機械によって奪われたんだ。」
人工知能などのテクノロジーの弊害
テクノロジーの発展によって、社会は便利になっていきました。
しかし、その影で、自ら誇りにしていた仕事を失ってしまった人も大勢いるのです。
ここで大切なのは、Bさんの「仕事は別にある。でも、やりがいは無くなったんだ。」という発言。
人工知能も、「これまでの仕事のうち、半分以上はなくなる」と言われていますが、おそらく仕事はあるでしょう。
味噌工場のパターンと同じように、機械のメンテナスだったり、新しい仕事は生まれるでしょう。
でも、仕事に対する誇りや、やりがいはどうでしょうか?
今まで誇りに思っていた仕事を、「うん、もうそれ時代遅れだし、コストもかかるから不要だよ。」と言われて、「はいそうですか。では、違う仕事に誇りを持って取り組みます」とすぐ言えるでしょうか?
職人として働いてきたBさんにとって、それは至難の技だったのです。
テクノロジーの進歩はものすごい速さで進んでいくし、世の中はどんどん便利になります。
ただ、その影で、仕事ではなく、やりがいを失ってしまった人がいるという事実も、頭の片隅に置いておくことに意味があると思うのです。
では、今回はここまでです。
人工知能といったテクノロジーの進歩に関して、「新たな意見に出会うことができた」と思っていただけたら幸いです。
また次回お会いしましょう。